犬との暮らしは、私たちに癒しと喜びを与えてくれますが、賃貸物件においては、近隣住民への配慮や物件の維持管理など、守るべきルールやマナーが存在します。特に、犬の粗相は、物件の汚損や悪臭の原因となり、退去時の修繕費に大きく影響する可能性があります。
この記事では、犬の飼育状況が原因で賃貸契約解除を求められた場合の敷金礼金の返還や修繕費用の負担について、具体的な事例を交えながら、不動産の専門家としての視点から詳しく解説します。
Aさんは、ペット可の賃貸戸建てで大型犬と小型犬の2匹を飼育していました。しかし、多忙な日々の中で犬の散歩やしつけがおろそかになり、室内は粗相だらけ。悪臭が漂う状態でした。
そんな中、大家さんから契約期間の途中であるにも関わらず、退去を求められてしまいます。Aさんは、敷金礼金を返還してほしいと主張しましたが、大家さんは室内の汚損を理由に、修繕費を請求する構えです。
Aさんの事例は、犬を飼う私たちにとって、決して他人事ではありません。そこで今回は、Aさんの事例を参考に、犬の粗相が原因で退去を求められた場合の対処法や、修繕費用の負担について、詳しく見ていきましょう。
犬との賃貸生活では、様々なトラブルが発生する可能性があります。ここでは、特に注意すべき3つのトラブルについて解説します。
騒音トラブル
犬の鳴き声は、近隣住民にとって大きな迷惑となることがあります。特に、集合住宅では、壁や床を通じて音が伝わりやすく、騒音トラブルに発展しやすい傾向があります。
臭いトラブル
犬の体臭や粗相の臭いは、室内にこもりやすく、近隣住民に不快感を与えることがあります。換気を徹底する、消臭剤を使用するなど、臭い対策をしっかりと行う必要があります。
物件の汚損
犬の引っ掻き傷や粗相は、壁や床、建具などを汚損する原因となります。退去時には、修繕費用を請求される可能性があるので、注意が必要です。
犬の粗相が原因で物件を汚損した場合、飼い主は大家さんに対して損害賠償責任を負う可能性があります。民法第718条には、動物の占有者の責任について以下のように定められています。
民法第718条(動物の占有者等の責任)
1. 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしていたときは、この限りでない。
2. 動物の占有者に代わってその動物を管理する者も、前項と同様の責任を負う。
つまり、犬の飼い主は、犬が他人に与えた損害を賠償する責任を負うということです。ただし、犬の種類や性質に応じて適切な管理をしていた場合は、責任を免れることができます。
犬の粗相による修繕費用の相場は、汚損の程度や範囲によって大きく異なります。
壁や床の張り替え
一部の張り替えであれば数万円程度で済む場合もありますが、全面張り替えとなると数十万円かかることもあります。
消臭作業
専門業者による消臭作業は、数万円程度が相場です。
その他
建具の交換やクリーニング費用なども、別途請求される場合があります。
敷金は、退去時の修繕費用に充当されることが一般的です。しかし、犬の粗相による汚損がひどい場合、敷金だけでは修繕費用を賄いきれないこともあります。その場合、追加で費用を請求される可能性があります。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、賃借人の原状回復義務について、以下のように定められています。
賃借人は、賃借物件を通常の状態で使用した場合に生じる損耗については、原状回復義務を負わない。しかし、賃借人の故意または過失により生じた損耗については、原状回復義務を負う。
つまり、犬の粗相が飼い主の過失によるものであれば、原状回復義務を負うということです。
敷金の返還交渉を行う際には、以下のポイントを押さえておきましょう。
契約書の内容を確認する
契約書には、敷金の取り扱いや原状回復義務について記載されています。まずは契約書の内容をしっかりと確認しましょう。
汚損状況を把握する
室内の汚損状況を写真や動画で記録しておきましょう。また、業者に見積もりを依頼し、修繕費用の相場を把握しておきましょう。
交渉の準備をする
契約書の内容や汚損状況、修繕費用の相場などを踏まえ、交渉の準備をしましょう。
冷静に交渉する
感情的にならず、冷静に交渉することが大切です。
犬との賃貸生活でトラブルを避けるためには、日頃からの対策が重要です。ここでは、特に効果的な5つの対策を紹介します。
1. ペット可物件を選ぶ
ペット可物件は、犬との生活を前提とした設計や設備が整っていることが多く、トラブルを未然に防ぐことができます。
2. 犬のしつけを徹底する
無駄吠えや粗相などの問題行動は、近隣住民とのトラブルの原因となります。犬のしつけを徹底し、問題行動を改善しましょう。
3. 室内を清潔に保つ
定期的な掃除や換気を行い、室内を清潔に保ちましょう。消臭剤や空気清浄機などを活用するのも効果的です。
4. 近隣住民への配慮を忘れない
散歩の時間帯や場所、犬の鳴き声など、近隣住民への配慮を心がけましょう。
5. ペット保険に加入する
犬が原因で発生した損害賠償責任に備えて、ペット保険に加入しておくと安心です。
犬との賃貸生活は、飼い主と犬にとって快適なものでなければなりません。そのためには、事前の準備と日頃の心がけが重要です。
物件選びは慎重に
ペット可物件であっても、犬種や頭数制限がある場合があります。契約前に必ず確認しましょう。
犬の健康管理をしっかりと
定期的な健康チェックやワクチン接種を行い、犬の健康状態を良好に保ちましょう。
困ったときは専門家に相談
犬のしつけや健康管理、賃貸契約に関するトラブルなど、困ったときは専門家に相談しましょう。
今回は、犬の粗相が原因で賃貸契約解除を求められた場合の敷金礼金の返還や修繕費用の負担について解説しました。犬との賃貸生活は、楽しいものですが、同時に責任も伴います。ルールやマナーを守り、近隣住民への配慮を忘れずに、愛犬との快適な生活を送りましょう。