愛犬との暮らしはかけがえのないものですが、賃貸物件の退去時には、原状回復に関する様々な疑問や不安が生じますよね。特にペット可物件の場合、通常の退去時よりも注意すべき点が多く、トラブルに発展するケースも少なくありません。
今回は、ペット可賃貸の退去時に発生しやすい、フローリングのシミや壁紙の補修費用について、どこまで負担する必要があるのかを、具体的な事例を交えながら解説していきます。
結論から言うと、契約内容や物件の状態によって、負担額は大きく変わってきます。しかし、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や、消費者契約法などの法律を理解することで、不当な請求から身を守り、適切な原状回復を行うことができます。
今回は、愛犬との賃貸生活を安心して送るために、退去時の原状回復義務について、具体的なケーススタディを通して詳しく解説していきます。
今回のケースは、入居期間が3ヶ月と短い点がポイントです。短期間での退去の場合、通常の使用による劣化は少ないと考えられるため、借主の負担割合は低くなる傾向にあります。
登場人物
Aさん:今回の相談者。ペット可賃貸マンションに小型犬と3ヶ月間居住。
Bさん:賃貸物件の管理会社。退去時にフローリングのシミと壁紙の補修費用を請求。
状況
Aさんは、ペット可の賃貸マンションに小型犬と3ヶ月間住んでいましたが、退去することになりました。退去時に、管理会社Bから、フローリングに残った犬のおしっこのシミと、家具を動かした際にできた壁紙の僅かなスレについて、補修費用を請求されました。
契約書には「ペットによる損傷は借り主が直さなければならない」という条項があります。Aさんは、この請求に全て応じなければならないのか不安に感じています。
まず、原状回復義務について正しく理解しておきましょう。原状回復とは、賃貸物件を退去する際に、借りたときの状態に戻すことを意味します。しかし、これはあくまで「通常の使用による損耗」を除いた範囲となります。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、以下のように定義されています。
通常損耗:日照、乾燥、温度・湿度など自然現象によって生じる建物の劣化、または、借主が通常の生活を送る上で通常発生すると考えられる損耗。
特別損耗:借主の故意・過失、または通常の使用方法に反する使用によって生じた損耗。
今回のケースでは、犬のおしっこのシミは「特別損耗」にあたる可能性が高いですが、壁紙のスレは「通常損耗」と判断される可能性もあります。
フローリングのシミは、犬のおしっこが原因であるため、Aさんの過失によるものと判断される可能性が高いです。しかし、ここで重要なのは、フローリング全体の張り替え費用を全額負担する必要はないということです。
減価償却
フローリングなどの建材は、時間の経過とともに価値が減少します。これを減価償却と言います。例えば、フローリングの耐用年数が10年だとすると、3ヶ月しか住んでいないAさんの場合、フローリングの価値はほとんど残っていると考えられます。
そのため、Aさんが負担すべきは、シミの部分の補修費用のみ、もしくは、張り替える場合でも、残存価値を考慮した金額となります。
補修方法
フローリングのシミの補修方法としては、以下のものが考えられます。
部分的な張り替え
シミ抜き
上塗り
最も費用を抑えられるのはシミ抜きですが、完全にシミが消えない場合もあります。部分的な張り替えの場合、範囲を最小限に抑えることで費用を抑えることができます。
壁紙のスレは、家具の移動によって生じたものであり、通常の使用に伴う損耗と判断される可能性が高いです。そのため、Aさんが補修費用を負担する必要はないと考えられます。
ただし、スレの程度が酷く、壁紙が大きく剥がれているような場合は、Aさんの過失と判断される可能性もあります。
壁紙の耐用年数
壁紙にも耐用年数があり、一般的には5~6年程度と言われています。今回のケースでは、Aさんの入居期間が3ヶ月と短いため、壁紙の価値はほとんど残っていると考えられます。
契約書に「ペットによる損傷は借り主が直さなければならない」という条項があっても、Aさんが全ての補修費用を負担しなければならないわけではありません。
消費者契約法では、消費者に一方的に不利な条項は無効とされています。今回のケースでは、Aさんの過失による損害のみを負担すれば良いと考えられます。
管理会社Bから不当な請求をされた場合、Aさんは冷静かつ論理的に交渉する必要があります。
1. 請求内容の確認:まずは、請求内容の詳細な内訳を確認しましょう。
2. 証拠の収集:入居時の写真や、退去時の状況を記録した写真などを集めておきましょう。
3. ガイドラインの提示:国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を提示し、自身の主張を裏付けましょう。
4. 専門家への相談:必要に応じて、弁護士や消費者センターなどの専門家に相談しましょう。
過去には、同様のケースで、交渉によって負担額を大幅に減額できた事例があります。
Cさんは、ペット可の賃貸マンションに2年間住んでいましたが、退去時に、管理会社Dから高額な原状回復費用を請求されました。Cさんは、弁護士に相談し、D社と交渉した結果、請求額を当初の3分の1に減額することに成功しました。
Cさんは、入居時の写真や、専門家の意見書などを証拠として提出し、自身の主張を裏付けました。また、D社に対して、消費者契約法に基づき、不当な条項の無効を主張しました。
ペット可賃貸を契約する際には、以下の点に注意しましょう。
契約内容の確認:原状回復に関する条項をよく確認しましょう。
入居時の状況記録:入居前に、物件の状態を写真や動画で記録しておきましょう。
ペット保険の加入:ペットが原因で発生した損害を補償するペット保険に加入しておきましょう。
ペット可賃貸の退去時には、原状回復に関するトラブルが発生しやすいですが、正しい知識と冷静な対応で、不当な請求から身を守ることができます。
今回のケースでは、Aさんは、フローリングのシミについては、部分的な補修費用のみを負担し、壁紙のスレについては、負担する必要はないと考えられます。
愛犬との暮らしを安心して送るために、契約内容をよく確認し、入居時の状況を記録しておくことが重要です。また、万が一トラブルが発生した場合は、専門家に相談することも検討しましょう。