結論: 犬や猫と暮らす賃貸住宅の原状回復費用は、ペットの種類や数、建物の状況、契約内容によって大きく変動します。しかし、今回のケースのように、犬による壁紙の損傷、フローリングの角のかじり、網戸の破損、避難扉の破損、窓ガラスのヒビ割れがある場合、数十万円単位の費用がかかる可能性も考慮しておく必要があります。
この記事では、同様のケースを参考に、原状回復費用の内訳や交渉のポイント、費用を抑えるための対策などを詳しく解説します。
Aさんは、愛犬のポメラニアン「モコ」と3DKの賃貸マンションに1年半暮らしていました。ペット可の物件を探すのが難しく、大家さんの「黙認」という形で犬との生活をスタート。しかし、Aさんの心配は的中し、退去時に高額な原状回復費用を請求されることになったのです。
退去時、Aさんは管理会社から提示された原状回復費用の見積もりを見て愕然としました。その額、なんと45万円!内訳は以下の通りです。
壁紙の張り替え(全面):20万円
フローリングの補修:10万円
網戸の張り替え:5千円
避難扉の交換:8万円
窓ガラスの交換:6万5千円
Aさんは、モコが壁紙を引っ掻いたり、フローリングの角をかじったりしていたことは認識していましたが、まさかここまで高額になるとは思っていませんでした。
Aさんは、管理会社に費用の内訳について詳しく説明を求めました。そして、以下の点を主張しました。
1. 壁紙の全面張り替えは不要ではないか:
壁紙の損傷は一部であり、全面張り替えではなく部分的な補修で済むのではないか。
2. フローリングの補修費用が高すぎる:
フローリングの角のかじり跡は小さいので、専門業者による補修ではなく、DIYで対応できる範囲ではないか。
3. 窓ガラスのヒビ割れは経年劣化ではないか:
窓ガラスのヒビ割れは、モコが原因ではなく、気温の変化による自然なものと考えられるのではないか。
管理会社は、Aさんの主張に対し、当初は「契約書に記載されている通り、ペットによる損傷は全額借主負担」という姿勢を崩しませんでした。しかし、Aさんは諦めずに、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や、消費者センターの相談事例などを参考に、根拠を持って交渉を続けました。
Aさんの粘り強い交渉の結果、管理会社は最終的に原状回復費用を30万円に減額することで合意しました。減額の内訳は以下の通りです。
壁紙の張り替え:部分補修に変更(12万円)
フローリングの補修:DIYによる補修を認める(費用0円)
窓ガラスの交換:経年劣化と判断(費用0円)
Aさんは、今回の経験を通じて、ペットと暮らす賃貸住宅の原状回復について、事前にしっかりと知識を身につけておくことの重要性を痛感しました。
原状回復費用は、建物の種類や広さ、設備のグレード、損傷の程度などによって大きく異なります。以下は、一般的な原状回復費用の相場と内訳です。
壁紙の張り替え: 1平方メートルあたり1,000円~2,000円
フローリングの張り替え: 1平方メートルあたり8,000円~15,000円
フローリングの補修: 1箇所あたり5,000円~30,000円
網戸の張り替え: 1枚あたり3,000円~5,000円
襖・障子の張り替え: 1枚あたり3,000円~8,000円
ハウスクリーニング: 1Kあたり20,000円~40,000円
エアコンクリーニング: 1台あたり8,000円~15,000円
今回のケースのように、犬や猫による損傷がある場合は、通常の原状回復費用に加えて、ペット臭の消臭費用や、ペットが原因で発生した汚れの除去費用などが加算されることがあります。
原状回復費用の負担区分は、原則として賃貸借契約書に記載されています。しかし、契約書に記載されている内容がすべて有効とは限りません。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復費用の負担について、以下のように定めています。
借主の負担となるもの:
故意または過失による損傷、通常の使用を超えるような使用による損傷
貸主の負担となるもの:
経年劣化、通常の使用による損耗
今回のケースでは、犬が壁紙を引っ掻いたり、フローリングをかじったりしたことは、借主の過失による損傷とみなされる可能性が高いでしょう。しかし、窓ガラスのヒビ割れについては、経年劣化によるものと主張することで、貸主の負担とすることが可能かもしれません。
原状回復費用を抑えるためには、以下の対策が有効です。
1. 入居前に契約書をよく確認する:
原状回復に関する条項をしっかりと確認し、不明な点があれば必ず貸主または管理会社に質問しましょう。
2. 入居時に室内の状況を記録する:
入居時に室内の状況を写真や動画で記録しておきましょう。退去時に、入居前からあった傷や汚れについて、借主の責任を問われることを防ぐことができます。
3. ペットによる損傷を防ぐ:
犬や猫が壁や床を傷つけないように、ペット用の爪とぎやマットなどを設置しましょう。
4. 定期的な掃除とメンテナンス:
日頃からこまめに掃除やメンテナンスを行い、室内の状態を良好に保ちましょう。
5. 退去前に自分でできる範囲で修繕する:
壁紙の剥がれや小さな傷などは、自分で補修することで、原状回復費用を抑えることができます。
6. 複数の業者から見積もりを取る:
管理会社から提示された見積もりが適正かどうかを判断するために、複数の業者から見積もりを取りましょう。
7. 交渉する:
管理会社から提示された原状回復費用に納得できない場合は、根拠を持って交渉しましょう。
賃貸トラブルに詳しい弁護士のBさんは、「原状回復費用は、貸主と借主の双方が納得できる金額で合意することが重要です。そのためには、双方が根拠となる資料を提示し、冷静に話し合うことが大切です」と語ります。
また、ペット共生住宅の専門家Cさんは、「ペットと暮らす賃貸住宅では、入居時から退去時まで、貸主と借主がコミュニケーションを密にすることが重要です。定期的に室内の状況を確認し、問題があれば早めに相談することで、トラブルを未然に防ぐことができます」とアドバイスします。
犬や猫と暮らす賃貸住宅の原状回復費用は、高額になることもありますが、事前にしっかりと対策を講じることで、費用を抑えることが可能です。今回のケーススタディや専門家のアドバイスを参考に、賢く原状回復を進めましょう。