ペットと暮らせる賃貸物件は嬉しい反面、退去時の原状回復費用でトラブルになるケースも少なくありません。今回のケースでは、提示された原状回復費用の内訳が妥当かどうか、慎重に判断する必要があります。まずは、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に、ご自身のケースに当てはめて考えてみましょう。
今回のケースは、築60年超のペット可賃貸戸建に1年間入居した方が、退去時に高額な原状回復費用を請求されたというものです。特に、ペット専用クリーニング代、畳の表裏返し、クロス張替といった項目が、本当に借主の負担となるべきものなのか、詳しく見ていきましょう。
賃貸契約における原状回復とは、借主が借りた当時の状態に戻す義務のことではありません。通常の使用によって生じた損耗(経年劣化)については、貸主が負担するのが原則です。しかし、借主の故意や過失、または通常の使用を超えるような使い方によって生じた損耗については、借主が原状回復費用を負担する必要があります。
ペット可物件の場合、通常の賃貸物件よりも原状回復に関する特約が設けられていることがあります。例えば、「ペットによる臭いを除去するためのクリーニング費用は借主負担」といった内容です。しかし、この特約が有効となるためには、以下の条件を満たしている必要があります。
特約の内容が明確に記載されていること
特約の内容が借主に不利すぎないこと
契約時に特約について十分な説明があったこと
今回のケースでは、契約書にペットに関する特約がどのように記載されているかを確認することが重要です。
提示された原状回復費用の内訳について、一つずつ検証してみましょう。
ペット専用クリーニング代:9万円
ペット可物件の場合、ペットの臭いを除去するためのクリーニング費用は、特約に基づいて借主が負担することがあります。しかし、9万円という金額が妥当かどうかは、クリーニングの内容や範囲によって異なります。複数の業者から見積もりを取り、相場を確認することをおすすめします。また、入居時にハウスクリーニングがされていたかどうかも確認しましょう。入居時にクリーニングがされていなかった場合、借主がクリーニング費用を負担する必要はないと考えられます。
畳の表裏返し:6万円
畳の表裏返しは、通常の使用による損耗とみなされることが多く、貸主が負担するのが原則です。しかし、ペットによる汚れや傷がある場合は、借主が負担する必要があるかもしれません。今回のケースでは、犬が畳を汚したり傷つけたりしたという事実がないため、借主が負担する必要はないと考えられます。
クロス張替
クロスの張替費用は、通常の使用による汚れや日焼けによる変色であれば、貸主が負担するのが原則です。しかし、ペットによる引っかき傷や臭いなどが原因でクロスを張り替える必要がある場合は、借主が負担する必要があるかもしれません。今回のケースでは、犬による破損はないとのことですので、借主が全額を負担する必要はないと考えられます。ただし、玄関周りの汚れがひどい場合は、一部負担を求められる可能性もあります。
管理会社から提示された原状回復費用の内訳に納得できない場合は、以下のポイントを踏まえて交渉してみましょう。
根拠を示す
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や、過去の判例などを参考に、自身の主張の根拠を示しましょう。
相場を調べる
複数の業者から見積もりを取り、提示された費用の相場を確認しましょう。
記録を残す
交渉の経緯や内容を記録しておきましょう。
第三者機関に相談する
交渉が難航する場合は、国民生活センターや弁護士などの専門家、地域の不動産相談窓口に相談することも検討しましょう。
過去には、ペット可物件の退去時に高額な原状回復費用を請求されたものの、交渉によって費用を大幅に減額できたケースがあります。例えば、以下のような事例があります。
犬がフローリングに軽い傷をつけてしまったが、通常の使用による損耗と主張し、フローリングの張替費用を免除してもらった。
ペットの臭いが残っていると指摘されたが、消臭剤の使用や換気を徹底していたことを証明し、クリーニング費用を減額してもらった。
管理会社が提示した費用の内訳が不明確だったため、詳細な見積もりを要求し、不当な費用を削除してもらった。
今回のケースでは、以下の点に注意して交渉を進めることをおすすめします。
契約書にペットに関する特約がどのように記載されているかを確認する。
ペット専用クリーニング代、畳の表裏返し、クロス張替の費用が妥当かどうか、相場を調べる。
犬による破損がないことを主張する。
交渉が難航する場合は、専門家や第三者機関に相談する。
ペットと暮らせる賃貸物件は、私たちに癒しと喜びを与えてくれます。しかし、退去時の原状回復費用でトラブルになることもあります。今回のケースを参考に、契約書の内容をよく確認し、適切な知識を持って交渉に臨むことで、愛犬との暮らしを笑顔で終えることができるはずです。もし、不安な場合は、専門家や第三者機関に相談することも検討しましょう。